家づくり(注文住宅の建築)における建物の安心や安全がどのように保たれているかご存知でしょうか?建物施工品質の確保、そして欠陥住宅にならないための対策といったことは、その住まいで暮らす人にとって基本的な欲求です。
しかし、そのために大事な工事監理が適切に実行されていないことがあまりに多いため、安心できる家づくりをするには、ここで実態と対策について学んでおいた方がよいでしょう。
1.工事監理とは?
既に何度か工事監理という言葉を使っていますが、これを正しく理解できていない人の方が多いでしょう。漢字を見て、なんとなく建築工事をチェックするようなものだろうとイメージできるかもしれませんが、もう少し正確に理解するため、以降で解説します。
1-1.工事監理とはどういうものか
家を建てるときの主だった役割として、「設計」「施工」「監理」というものがあります。設計は、建物のプランを図面に描く作業で、施工は現場で行う工事そのものです。そして、監理とは図面の通りに現場できちんと工事しているか確認することです。
監理と書きましたが、建築士法では「工事監理」として以下の通りに定義されています。
「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること
(建築士法第2条8項より引用)
設計図書とは図面(設計図)の集合体です。つまり、図面通りに工事しているのかチェックすることだと定義しているわけです。実際の監理業務では、監理者が施工の品質まで検査することが業務に含まれています。
1-2.監理の大切さ
住宅の建築過程では、いろいろな問題・トラブルが起こることがあります。その1つが図面通りに現場で施工されていないというミスです。筋交いの設置位置を間違えるとか、基礎の配置がずれているとか、信じられないミスが起こっている現場は少なくありません。
これをチェックするのが監理です。まさに図面との照合ですね。
また、施工品質のトラブルはもっと多いです。ボルトが大きく曲がって取り付けられているとか、金物が緩んでいるなどといった類のものです。これもまた監理をきちんとしてもらえれば、その多くを防ぐことができるものです。
つまり、監理を適切に実行してもらえれば、これらのトラブルにある可能性は随分と低くなり、安心できるものです。監理の大切さがわかりますね。
1-3.管理と監理の違い
家づくりを考えている人と話をしていてよく誤解があると感じることの1つが、「管理」と「監理」の違いです。ともに「かんり」と読むためにややこしいと感じるのも無理はありません。建築会社の担当者と口頭で話していたら、同じ読みですからどちらのことを言っているのかわからないかもしれません。
管理とは、現場監督が行っている業務だと考えてほぼ間違いありません。工事の進捗確認、各業者・職人の手配、材料・商品の発注、現場の安全確保などを行うものです。
これに対して監理とは、設計図書(図面)と現場の照合、施工品質の検査、現場との打合せ、施主への報告などを行うもので、設計者が監理者となっていることが多いです。
小さな工務店では、その会社の社長が監理者も現場監督も全て兼ねているということもありますが、基本的には別の人がやっているものです。
1-4.社内検査との違い
ハウスメーカーなどが、「社内検査体制が充実しているので、安心です」とアピールしていることが多いですが、監理で検査をするのであれば、社内検査とはこの監理のことを指しているのでしょうか。
多くの場合、そうではありません。別に検査システムがあることをアピールしていることが多いです。ちなみに、実際にこの社内検査システムが適切に機能しているかどうかは別の話で、相当怪しいことが多いです。
大手ハウスメーカーではなくとも、工務店は工程の節目や完成時などに監理者かその他の者が検査に入ることはありますから、建築を依頼する会社に社内検査の対応について確認するとよいでしょう。
2.形態別に見る監理の実態
監理が適切に行われているならば、安心できることがよく分かったと思います。適切に行うためには、担当者の知識・経験などの能力と設計や施工との関係が重要です。ここでは、監理と設計や施工との関係について解説します。
2-1.設計・施工・監理の独立が理想
監理とは設計図書(図面)と現場の照合や検査を行う立場だということがわかれば、監理の独立性が大事だということに気づきますね。
例えば、現場で施工ミスがあれば指摘して補修を求めなければなりません。もちろん、図面との相違箇所があれば同様に是正を求める必要があります。補修・是正には手間やコストがかかることですから、監理と施工が同じ会社や関連会社ということであれば、あまり強く言わない、もしくはあえて見逃すということもあります。
また、設計との関係でも本来ならば監理は独立性を保つことが理想だとされています。設計上のミスがあれば、設計の是正が必要なときもありうるのですが、設計と監理を同じ人がしている場合は、誤魔化そうとすることもあります。
但し、多くの場合、設計と監理は同じ人がしています。設計・施工・監理の3者の独立性を保つことが理想だとされていますが、それがなされているケースは稀なのです。
2-2.設計事務所への依頼で設計監理と施工をわける
家づくりの設計を独立した設計事務所に依頼するケースの場合、設計と監理をその設計事務所に委託することが非常に多いです。そして、設計事務所から紹介された工務店に施工してもらうことが多いのですが、この場合、設計と監理は同じで施工が独立した形になっています。
施工と分離しているだけでも、全てが一体となっているよりも安全性は高まります。ただ、設計事務所から紹介を受けた工務店では、その両者の付き合いもあることなので不安だと考えて、工務店は別で探すという人もいます。
これも1つの考え方です。但し、設計事務所によっては、知らない工務店とは仕事がしづらいことなどを理由に嫌がるケースもあるので、早い段階で確認しておいたほうがよいでしょう。
2-3.設計・施工・監理を一貫して依頼するパターンが多い
ハウスメーカーに依頼して注文建築で家を建てる場合、その多くで、設計・施工・監理の全てを一社で引き受けています。設計・施工・監理を一貫して対応していることをアピールしていることもありますが、これは監理の独立性が保たれておらず、施主にとっては施工品質の確保という点ではマイナス材料になっています。
施主にとってプラスとなるのは、全ての責任がハウスメーカーにあるため、責任の所在が明確だということです。設計と施工の間で互いに責任を擦り付け合うことがありますが、一貫しているのであれば、施主にすればいずれにしてもハウスメーカーへ責任追及できますね。
このパターンの場合、監理が名ばかりでほとんど何もしていないことも多いため、施主としては施工品質の確保について対策を検討した方が良い場合が多いです。
2-4.建売住宅の設計・施工・監理
新築の建売住宅では、設計・施工・監理がどうなっているのでしょうか。売主が自社でこれら全てを一貫して対応していることもあれば、全て外部に委託していることもあります。設計だけ、もしくは監理だけを自社で行って施工のみを外部へ委託するというケースはほとんどありませんが、設計と監理を外部へ委託して施工は自社でしているということはあります。
工務店が不動産業(正しくは宅地建物取引業)の免許を取得して、建売住宅の分譲をするときには、このパターンがあるのです。
ちなみに、工務店によって、社内に設計者(建築士)がいる場合といない場合があり、会社の体制によって何を自社で行い、何を外部委託するのか異なるわけです。
3.安心・安全のために施主がとるべき対策
建築業界では、残念ながら監理が適切に行われていないことがあまりに多いため、今でも欠陥工事、施工ミスといった話題が絶えません。建築トラブルの相談は増えるばかりです。ここでは、施主が安心・安全のために取るべき対策についてお伝えします。
3-1.監理の独立性を確保する
まずは監理の基本に立ち戻って、独立性の確保を考えることです。
施工と監理を別の会社に依頼するということですね。「2-3.設計・施工・監理を一貫して依頼するパターンが多い」や「2-4.建売住宅の設計・施工・監理」で説明したケースは、これができていないことになりますから、設計事務所に依頼する方法が1つの解決策になります。
3-2.監理に投資する
監理が適切に行われていない理由は、施工会社が自ら監理する形をとることが多いからです。施工と監理が独立していないということですが、これは言い方を変えれば監理にお金を使っていないということでもあります。
安心・安全には、それなりにコストのかかるものですから、監理に対してきちんと投資するという考えをもつことです。
3-3.第三者の住宅検査(ホームインスペクション)を利用する
監理に投資しようとしても、設計・施工・監理を一貫して対応している建築会社で建ててもらう場合、監理をわけてもらうこともできません。建売住宅もそうですね。その場合、監理とは別に第三者の住宅検査(ホームインスペクション)会社に検査を依頼する方法もあります。
名ばかりの監理の場合、実際にはそこに投資していない状況ですから、別途で検査会社を入れるのもよいでしょう。ちなみに、建築会社が第三者機関に検査を委託していますが、それは法規準や瑕疵保険加入のための簡単な検査のことですから、これと混同せず、別途で自ら依頼する必要があります。
監理が大切なものであること、また適切に監理してもらえない住宅が非常に多いことを理解して頂けましたか?監理経験が豊富な設計事務所に設計・監理を依頼し、施工は別の工務店に依頼することが、この問題を解決するオーソドックスな方法ですが、自分にあった形を模索してみましょう。