これから家を建てるための土地を探すなかで、傾斜地にある土地を購入するかどうか迷うケースもありうるでしょう。郊外の住宅地でも、横浜や神戸のような斜面地の多いエリアでも傾斜地を検討する機会はいくらでもあります。
今回のコラムは、傾斜地に家を新築しようかと考えている人、または傾斜地にある中古住宅や建売住宅の購入を検討している人が読んでおきたい記事です。
1.傾斜地にある住宅のリスク
傾斜地に家を建てる、もしくは傾斜地の住宅を購入するうえで考えられるリスクをまずは箇条書きであげてみます。
- 擁壁の著しい劣化
- 地盤
- 斜面の崩落と土地のずれ
- 道路より低い土地
- 建物が悪影響を受ける
上に上げたなかでも、敷地や敷地の近くで斜面が崩れないかといった心配をされる人は多いです。他にも、建物が何か悪影響を受けることがあるのではないかと心配したり、擁壁に問題がないかと心配したりすることもあります。
傾斜地に対するイメージはマイナス面が先行しているようですが、メリットをあげるならば、眺望でしょうか。特に南側に向かって下がっていく傾斜地であるならば、南側の建物が低い位置となり、状況次第では2階部分のみならず、1階部分まで明るい住まいとなることも十分に考えられます。
ただ、今回は傾斜地のリスクに注目していますので、以降では傾斜地のリスクと注意点について詳しく解説していきます。
2.傾斜地にある擁壁のリスクと注意点
傾斜地と言えば擁壁をイメージする人も多いでしょう。擁壁が崩壊するようなことがあれば、その土地に建つ住宅にとって致命傷となることもありえますし、そこまでの影響がなくとも擁壁の復旧等に費やす手間も大変です(場合によってはコスト負担も)。
2-1.擁壁の著しい劣化によるリスク
擁壁が古くて劣化が進んでいる場合には、一部が崩壊することもあります。そういったニュースを見ることはほとんどありませんが、古い擁壁が増えていますから、今後は問題となるものも出てくるでしょう。
擁壁の一部が壊れたとき、その土地に建築されている住宅も損傷を受ける可能性がありますし、復旧に多大なコストがかかることも考えられます。
2-2.現実的に安全性の確認は困難
古い擁壁がある場合、その安全性を確認したいところですが、それは現実的には難しいものです。擁壁の内部構造・状態を確認することは困難であり、一般的な住宅の建築や購入の過程で擁壁のその確認を大きな費用をかけることはできないでしょう。
現実的には、目視などの簡易的な確認を行って参考とすることになります。
2-3.擁壁の高さが2メートル超かどうか
高さが2メートルを超える擁壁を構築するときには、建築確認申請をする必要があります。つまり、擁壁を構築してから完了検査を受けなければならないということですから、一定の安全性を確認しているだろうという参考になります。
万一、高さ2メートルを超えているにも関わらず、建築確認申請をしていなければ問題ですから、検査済証を見せてもらって確認するとよいです。
高さ2メートル以下の擁壁については、建築確認申請を必要としていません。高さが低いから心配ないということかというとそうでもありません。単純に高さのみを比較すれば、低い方が安心できるのは確かです。しかし、2メートル以下ならばチェックがないことから、安全性の低い擁壁を構築することもあるからです。
たとえば、1.5メートルの高さがあって検査を受けていないものよりも、2メートルで検査を受けている方がよいだろうということです。
2-4.目視で確認できること(擁壁のチェックポイント)
擁壁を自分でチェックするポイントをあげておきます。擁壁のある土地、住宅を購入するときには、最低限度でもここにあげたことは確認しておきましょう。
- 大きなひび割れ(亀裂)の有無
- 水抜き穴の有無
- 排水溝の有無(擁壁の下部分)
大きなひび割れは構造的な劣化の可能性があります。
水抜き穴は地中の水を排水する役割を担っていますが、これがないと地中の水分量が増えて、擁壁の劣化を招くことや建物の沈みにつながってしまうリスクがあります。
擁壁の下側にある排水溝は、水抜き穴などから流れ落ちてきた水をその場で溜めてしまわずに排水するために必要なものです。これが無いと擁壁の下側の地面に多くの水が流れてしまい、迷惑をかけてしまう可能性があります。
3.傾斜地における地盤のリスクと注意点
家を建てるときには、今では必ず地盤調査を行うはずです。一般的な地盤調査では、30坪程度の土地ならばその敷地内の5箇所でスウェーデン式サウンディング法によって調査されますが、同じ敷地内にも限らず調査箇所(測定点)によって調査結果に大きな差異が生じることがあります。
元々そのような地盤である可能性もありますが、傾斜地では切土と盛土の問題もあります。斜面地では、地盤を削って、その削った土を埋め立てることで平滑な土地を造成していきます。
削った方の土地は切土と言われ、元々ある土地ですから地盤は比較的に良好です。逆に削り取った土を埋め立てて新たに作った土地は盛土と言われますが、こちらは軟弱であることが多いです。切土に建つ家なら地盤が強いが、盛土に建つ家は地盤が弱い可能性が高いわけです。
傾斜地では、この切土と盛土が多いので注意が必要だというわけです。そして、1つの敷地内で地盤調査の結果で大きな差異が生じるというのは、その土地内で切土の箇所と盛土の箇所の両方がある場合です。地盤調査をすると本当に驚くような調査結果の相違に遭遇することがあるのです。
4.斜面の崩落・土地のずれのリスクと対処方法
傾斜地でも、急な傾斜地やその傍では斜面の崩壊等が心配になりますね。崩壊のほかに地滑りや土石流を含めたものを土砂災害と言いますが、この土砂災害のおそれのある区域は、国土交通大臣の名で作成された基本指針に基づき、各自治体が区域を指定しています(土砂災害警戒区域・土砂災害特別計画区域)。
これに該当するエリアであるかどうかは、各自治体のホームページで誰でも確認できますから、見ておくとよいでしょう。
傾斜地では崩壊・地滑り・土石流のほかにも、土地のずれの問題が起こることもあります。斜面地に住宅が建築された場合、高い方から低い方へと圧力がかかるため、長い年月の間に徐々に地面がずれることがあるのです。それが基礎や外壁のひび割れとなって現れることもあります。
5.道路より低い土地には要注意
傾斜地の住宅街ではしばしば見られることですが、道路よりも敷地の地面の方が低いことがあります。
強い雨が降ったときにはどんどん敷地内へ雨水が流入してきてしまい、かつ敷地内の雨水が敷地外へ流れづらくもなり、その結果として建物の床下へ雨水がまわってしまうことがあります。また、いつまでも水はけが悪くて湿気の多い土地となり、カビ被害にあいやすいこともあります。
道路よりも低い土地を購入するのであれば、排水計画がどうなっているのか注意して見ておく必要があります。
6.建物への影響に要注意
地面が動いたり、地盤補強が不十分であったりすると建物に問題が生じることもあります。既存の建物があるならば、その建物の症状を調べることで影響有無を確認できることもあります。
6-1.建物への影響の確認方法(基礎・外壁・内壁のひび割れ)
建物に生じる影響としては、基礎や外壁面、内壁面に生じるひび割れがあります。ひび割れがあれば、全てが傾斜や地盤と関連があると決めつけるべきではありませんが、その可能性も考慮して対応を検討した方がよいでしょう。
ひび割れの表面だけを補修しても根本解決にはならず、再発や悪化することもあるので要注意です。ひび割れが、じっくりと目視で確認してください。
6-2.建物への影響の確認方法(床・壁の傾き)
各室の床や壁に傾きがないか確認しましょう。壁の傾きは壁際においている家具と壁の隙間を家具の下と上とで比較すればわかることがあります。床についても確認したいものですね。
ちなみに、体感や目視で傾斜を感じるレベルであれば、かなり大きな傾きである可能性もありますの、専門家に相談することは必須だと考えてよいでしょう。
6-3.周囲の建物や外構の状態も参考に
建物本体だけではなく、塀や門扉などの外構も参考に確認してみましょう。塀の傾きは傾斜地であることと関連性があるかもしれません。
また、購入予定の土地が更地であるならば、お隣やすぐ近くに建っている住宅建物のひび割れの有無も参考にするとよいでしょう。