中古住宅の購入において、大きな安心となるのがホームインスペクション。
購入前に劣化状況を客観的に診断し、予期せぬトラブルを防ぎます。
しかし売主が実施するホームインスペクションには、注意が必要です。
なぜなら、
・売主にとって、ホームインスペクションを受ける意味
・買主にとって、ホームインスペクションを受ける意味
が違うからです。
お互いの利害が一致していないため、「思っていた結果とちがう・・・」となりがちです。
この記事では、売主が実施するホームインスペクションの真意について解説します。
ホームインスペクションを正しく利用するため、ぜひ最後までお読みください。
なぜ売主がホームインスペクションを実施するのか?
近年、売主が実施するホームインスペクションが増えています。
それに伴い、トラブルも増えました。
本来であれば売主は、余分なコストをかけずに売却したいところ。
にも関わらず売主が実施するようになったのは、次のような背景があるからです。
2018年・中古住宅でインスペクションの告知義務化
大きなポイントになったのが、2018年に実施された中古住宅での「インスペクションの告知義務化」です。
インスペクションの告知義務化とは、
1・媒介契約を結ぶ際、インスペクション業者の紹介を告知する。(売主)
2・重要事項説明をするとき、インスペクションの内容について告知する(売主・買主)
3・売買契約が成立したとき、建物の現状について確認した書面を交付する(売主・買主)
というもの。告知の義務化により、
「インスペクションの要望がなくても、告知する必要がある。」
「インスペクションについて質問されなくても、告知する必要がある。」
と、変わりました。
そのため告知義務化を受けて、自らインスペクションを受ける売主が増えたのです。
※ただし告知が義務化されただけであり、実施は義務化されていません。
「安心できる中古住宅」として売り出せる。
告知義務化は、売主の負担を増やしました。
一方でインスペクションの普及は、「安心できる中古住宅」として売り出すチャンスです。
インスペクションを受けた住宅は、「安心できる中古住宅」として販売できます。
そのため率先して、インスペクションを受ける売主が増えたのです。
欠陥を報告すれば、保証しなくてもいい。
売主にとって怖いのが、売却したあとの保証問題です。
一般的に中古住宅は、3カ月の保証期間である物件が多いです。(契約不適合責任)
しかし例外もあります。
契約時に欠陥を報告すれば、その部分についての保証義務はないのです。
「売却したあとに保証問題で頭を悩ませたくない。」
手離れのいい売却を目指したい売主を中心に、売主実施インスペクションが広がっていきました。
一致しない利害関係。売主ホームインスペクションの注意点
買主からすると、売主が費用を負担してインスペクションを受けてくれるのは安心材料の1つのはず。
しかし中古住宅の場合、「売主が実施したホームインスペクション」で安心するのは危険です。
売主と買主の利害関係は一致しない。
売主が実施したホームインスペクションで安心できないのは、売主と買主の利害関係が一致しないからです。
売主 | 「安心できる家」として、早期・高値で売却したい。保証は背負いたくない。 |
買主 | 見落としがちな欠陥まで発見したい。安心できる中古住宅をじっくり選びたい。 |
売主にとってのインスペクションは、あくまでも早期・高値で売却するための手段の1つです。
「インスペクション済み物件」として販売することで、買主に安心感が与えられます。
一方で買主は、見落としがちな欠陥(不具合)の発見に期待しています。
・重大な欠陥が見つかれば、契約を見送りたい。
・契約前に不具合を把握しておきたい。
インスペクションは、中立的な立場から診断します。
買主は「仲介業者・売主が積極開示したがらない情報」こそ、インスペクションで明らかにしたいと期待してます。
売主実施では、最低限の項目しか確認しないことが多い。
売主が実施するインスペクションでは、買主が求めるレベルを満たさないことが多いです。
なぜなら売主実施では、最低限の項目しか確認しないことがあるからです。
インスペクションの基本的な範囲は、目視検査になります。
・屋根
・床下
・天井裏
などは、目視検査では限界があります。
目視ではチェックが行き届かない範囲は、実際に潜っての確認おすすめしたいところ。
しかし床下に潜る対応はオプション料金であり、売主がそこまで実施しているのはレアケースです。
買主が知りたいのは、最低限の項目だけではありません。
・カビ
・断熱材の欠損
・金物のぐらつき
・排水口のつまり
重大な欠陥だけでなく、重大になるかもしれない不具合も発見したいのです。
しかし売主にとってそのような意識は低く、お互いの認識はズレたままです。
「基準を満たしているから、安心」とは言い難い。
ホームインスペクションで注意すべきなのが、「基準を満たしているから安心」とは言い難い点です。
なぜならインスペクション上の基準は、あくまでも重大な欠陥であること。
つまり「重大な欠陥ではないが、重大になる可能性のある欠陥・不具合」は、報告義務がないのです。
たとえば、基礎のヒビ割れ。
インスペクションでは、0.5mm未満のヒビ割れは報告の義務がありません。
しかし状況によっては、0.5mm未満のヒビ割れでも早急な対応が必要になるケースもあります。
売主が主張するのは、「インスペクションを受けた結果、問題がない。だから安全だ。」というもの。
しかし現実はちがいます。インスペクションの報告義務以下の数値であっても、早急な対応が必要なケースはあります。
買主が知りたいのは、重大な欠陥につながる「欠陥予備軍」。
しかし売主実施のインスペクションでは報告されないこともあり、買主の目的が達成されません。
売却を優先し、検査報告をマイルドにすることも。
ホームインスペクションは、本来、客観的な立場から診断するもの。
しかし売主が実施するインスペクションでは、売却を優先するがあまり、客観性に疑問が持たれるケースもあります。
売りにくくなる直接的な表現から、柔らかいマイルドな表現に置き換わるケースも。
客観性に疑問が持たれるようなインスペクションは、本来の役割が果たせません。
売主が費用を負担していても、買主のメリットは少ないでしょう。
ホームインスペクションの業者の探し方
告知義務により、身近な存在になったインスペクション。
ここで重要性が増したのが、インスペクション業者の選び方です。
意味のあるインスペクションにするためにも、次のポイントは抑えるべきでしょう。
原則、ホームインスペクション業者は自分で探すべき
告知義務により、仲介業者からインスペクション業者を紹介してもらうことも可能です。
しかし客観性を担保する意味でも、インスペクション業者は自分で探すべきでしょう。
仲介業者と提携している業者の中には、客観性が担保できない業者もいます。
客観性が担保できない環境でインスペクションを受けても、期待する効果が得られないことが多いです。
買主にとって大切なのは、インスペクションを利用して安心できる中古住宅を購入すること。
それに必要なのは、「インスペクションの基準に関わらず、細かく丁寧に診断してくれる業者」です。
仲介業者の紹介に頼らず、自分で業者を選定することが大切です。
格安をうたう業者には注意が必要。
インスペクション業者の中には、格安をうたう業者もいます。
しかし格安業者では、
・最低の範囲でしか対応しない。
・基準以下であれば、報告しない。
・報告が不親切で、分かりにくい。
などのケースもあり、おすすめできません。
インスペクションの相場は、およそ5~10万円。
中古住宅の購入費と比較すれば、そう高い金額ではないはず。
格安インスペクション業者ではなく、手厚いサービス(床下・屋根裏対応など)をしている業者を選ぶべきでしょう。
まとめ:実りあるインスペクションを受けるために。
インスペクションの告知義務より、インスペクションの実施数が飛躍的に増えました。
しかし一方で不本意なインスペクションによるトラブルが増えたのも事実です。
とくに多いのが、売主実施のインスペクション。
売主と買主では利害関係が異なるため、インスペクションの目的がちがいます。そのためトラブルになりがちです。
大切なのは、インスペクションの客観性を保つこと。そのためには自分で業者を選定することが大切です。
安心した中古住宅の購入には、「基準以下の不具合も発見する、丁寧なインスペクション」が求められます。
大きな買い物になる住宅購入。ぜひインスペクションを正しく利用して、安心できる物件を購入してくださいね。