注文住宅を新築したり、既存の自宅をリフォームしたりするときに、その工事代金の見積り金額に関するトラブルは本当に多いものです。このトラブルの原因にはいくつものパターンがありますが、その原因の1つである見積り項目漏れについて取り上げます。
見積り項目漏れとは、施主が建築業者や設計者に対して依頼しておいた工事であるにも関わらず、提示された見積り書に含まれておらず、実際に工事もされなかったという問題です。建築中や建物完成後に漏れに気づいても、追加工事をするには一部解体工事を伴う等の障壁があることも多く、その費用を施主と建築業者のいずれが負担するかでよく揉めています。
トラブル、交渉が長引いて、工事が進まなかったり引渡されなかったりすることがあり、施主としても非常に困ってしまいます。今回のコラムでは、このトラブルを防ぐために見積書をチェックする方法をアドバイスしますので、住宅の新築・リフォーム工事の見積りトラブルにあわないよう活用してください。
1.見積り書に希望した工事項目が含まれるかチェック
注文建築やリフォームにおいて「施主が希望した工事が実施されない」「見積りに含まれていない」といったトラブルの多くは、施主が見積り書をきちんと確認していなかったことに起因することが多いです。ただ、施主は建築について素人ですし建築工事の見積書を普段から見る機会はありませんから、施主自身がチェックするのは簡単ではありません。
本来ならば、建築業者(ハウスメーカーを含む)や設計者が施主に見積り書を提示する前にきちんとチェックしておくべきなのですが、この業務を適切に遂行できていないケースは非常に多いです。その結果、冒頭に挙げたように建築中や完成後になって漏れに気づいて揉めることになるのです。
建築業者、ハウスメーカー、設計者がやっておくべきことだから任せておくという姿勢では、見積りに関するトラブルを防ぐことはできませんから、施主は面倒であっても時間を割いて、希望した工事項目が見積り書に含まれているかどうか、1つ1つチェックしてください。
希望内容と見積り書をチェックする流れは以下の通りです。
- 希望する工事内容をリスト化する
- リストを建築業者と施主が共有する
- 見積り書が届いたらリストと見積り項目が一致しているかチェック
- 不明点は建築業者・設計者に説明を求める
- 見積り漏れがあれば見積り書の再提出を求める
この流れにそって、それぞれのタイミングでやるべきこと、注意点などを以下でアドバイスします。
1-1.希望する工事内容をリスト化する
家族で話し合い、または建築業者、設計者などと打合せて決めた間取りや仕様(使用材料・設備など)について、できる限りリスト化していくようにしましょう。
建築業者や設計者との打合せ記録を作成してもよいですが、最終的に依頼する項目と中止する項目が混ざった書面(打合せ記録や間取り図など)では、後から見て大変わかりづらいものになりますから、プランがまとまった時点で改めてリスト化することが望ましいです。
リスト化が難しいならば、間取り図(平面図)や立面図に最終依頼項目を書き出していく方法でもよいです。
1-2.リストを建築業者と施主が共有する
リスト化した書面(または図面に書き出したもの)は施主が理解しておくためのものではありますが、建築業者・ハウスメーカー・設計者とのトラブルを未然に防ぐために作成するものでもありますから、両者で共有しておくことを推奨します。
ここで注意すべき点は、両者で共有するものは同じものであることです。いろいろな打合せを進めるなかで、互いに誤解してしまうこともありますし、何度も希望工事内容を変更するなかで多くの記録を残したために、何が最終依頼内容であるかわからなくなることはよくあることです。
最終依頼内容を書面化したもの(リストや図面に書き出したもの)は、両者で同じものを共有してください。
1-3.見積り書が届いたらリストと見積り項目が一致しているかチェック
建築業者や設計者が見積り書を作成して施主へ提出してからも、施主は時間を割いて対応すべきことがあります。それは、受領した見積り書に記載されている項目と事前にリスト化しておいたものが一致しているか、漏れている項目が無いか確認する作業です。
この作業はなかなか骨の折れるもので、時間もかかります。普段の生活の中で建築工事の見積り書を見る機会などはないでしょうから、見慣れないものをチェックするのは簡単ではありません。しかし、見積りトラブルを防ぐためにもここは大事なポイントですから頑張ってください。
1-4.不明点は建築業者・設計者に説明を求める
見積り書とリストを見比べていくなかで、どうしてもわからない項目も出てくるはずです。リストに書き出している名称と見積り書に記述している名称が異なることは多いですから、気付き辛いのです。漏れているのではないかと思われたことでも、実は見積り書に含まれているということもあります。
確実な漏れを見つけるためのチェックというよりも、不明点がないかという視点でのチェックが大事でもあります。不明点を探し出していき、その不明点を建築業者や設計者などに質問して説明を求めるようにしましょう。
見積り書をはじめて見て、その内容をすぐに理解することは難しいことですから、不明点があることは恥ずかしいことではありませんし、相手に遠慮する必要もありません。わからないことがあるのは当然のことだと思って、何度でも説明を求めるようにしてください。
リストと見積り書で項目名の相違点などがあることがわかれば、そのメモをとり残すようにしましょう。そのメモも施主と建築業者の間で共有するとよいでしょう。
1-5.見積り漏れがあれば見積り書の再提出を求める
見積り書とリストの照合によって漏れている項目があることがわかれば、それを含めた内容で見積り書を再作成してもらい、再度提出を求めるようにします。「漏れた項目が少しで金額もそれほど変わらないからいいか」「建築工事請負契約書の金額を合わせておけばいいか」などと考えずに、きちんと修正後の見積り書を再提出してもらってください。
2.見積り項目が仕様書・設計図に記述されているかチェック
見積り書のチェックを適切にできれば、見積り書における項目漏れを防ぐことができます。しかし、実際に施工する際に漏れが起こっているケースがありますから注意しなければなりません。
2-1.見積り書と仕様書・設計図を比較する
実際の施工時に工事漏れが起こる原因にもいくつかのパターンがありますが、その原因の1つは見積り書にある項目が設計図や仕様書に反映されていないことにあることです。
現場の監督や監理者、さらには職人の仕事は、仕様書や設計図を見て進めていくものです。現場で見積り書を持ち出してチェックしながら仕事をするということは普通ではないことです。ですから、仕様書や設計図に反映されていなければ漏れが起こってしまうのです。
本来ならば、仕様書や設計図、現場への指示内容に見積り内容を反映するのは、建築業者や設計者の責務です。そこまで施主が気にしなくてはならないのかという疑問が沸いてきますね。しかし、現実にこの手のミスが起こっているからには、施主としてもできる範囲で見積り書と仕様書・設計図を比較チェックしておきたいものです。
2-2.不明点は建築業者・設計者に説明を求める
見積り書をチェックするときと同様に、施主がチェックを進めていくなかでわからないことがいくつも出てくることでしょう。その不明点については、建築業者や設計者に対して遠慮せず質問してください。
見積り書チェック時の質問においても同様のことが言えますが、この作業によって漏れが解消されてリスクが減るならば、それは施主だけではなくて建築業者や設計者にとってもメリットとなることです。遠慮なく質問してください。
2-3.仕様書・設計図に漏れがあれば再提出を求める
このチェックによって、万一、漏れが見つかったならば、やはり仕様書や設計図の修正と修正後の再提出を求める必要があります。そして、修正後のものを最終図面として互いに共有するようにしてください。
3.確定した最終図面と見積り書を明確にする
見積り書や仕様書、設計図のチェックをした結果、項目漏れが発見されたときには、見積り書等の修正と再提出を求めることは既に書いた通りです。修正した後は、どの書面が確定したものであるか、互いに目の前にその書面を置いて確認しあってください。
何が確定したものであるか明確にしておかないと意思疎通のずれが原因で、希望した工事が実施されないという問題が起こってしまうことがあるからです。
また、漏れが見つかったときには既に建築工事請負契約を交わした後だということもあります。契約書に記載された工事金額から変更がある場合は、中間金や完成時の残金支払いの金額も変更になってきますから、契約内容の確認と修正も話し合わなければなりません。
4.見積り書・設計図・仕様書と現場の施工を照合する
以上にあげたところまで適切に進めることができたならば、書面関係は安心できるものになっているはずです。後は仕様書や設計図の通りに現場で施工してもらえればよいわけです。
しかし、ここでも問題が起こることがあります。仕様書等にはきちんと明記されているにも関わらず、現場のミスで工事漏れが生じてしまうことがあるのです。もちろん、ここで生じたミスは特別な理由がない限り、一方的に建築業者側の責任ですから、補修や追加工事の負担は負ってもらうことになります。
ただ、その負担(費用や手間の負担)が大きい場合などには、建築業者がなかなかミスを認めなかったり、認めていても動いてくれなかったりすることがあります。そういう場面に直面すれば酷い話だと誰もが感じることなのですが、これは実際に起こっていることです。
工事が進んでしまってから気づいた場合には、解体等の工事が生じるために建築業者の負担が大きくなることで、たとえミスであっても対応が悪くなることがあるのです。
できる限り早い段階でミスを発見して是正を求めることができれば、このトラブルを小さく抑えることができます。施工不良や欠陥工事をしないように第三者による住宅検査(ホームインスペクション)を利用する人も多いですが、こういった第三者に仕様書・設計図と現場の照合も依頼することでリスクを低くすることができます。
住宅の新築・リフォーム時における見積り漏れは決して少なくないトラブルですから、見積り段階から着工、完成に至るまで施主が適切に対応することでリスクをできる限り抑えておきたいものですね。