注文住宅の新築やリノベーションをするとき、施主はどの工務店に建築工事を発注するか迷いつつも工務店選びを進めていかなくてはいけません。その工務店選びに際しては、いくつかの業者を比較していくと思いますが、比較材料の1つとして実績を重視する人は多いでしょう。
確かに、工務店選びでは実績の確認が非常に大事です。実績の少ない工務店へ新築やリノベーション工事を依頼してしまうと、建築トラブルに巻き込まれてしまうリスクは上がります。実績が少なくとも良い仕事をしてくれることはあるのですが、事前にそれを見分けることは難しいため、実績のチェックは大事だと言えるのです。
しかし、工務店の実績の正しい確認方法を知らないために、工務店選びで失敗し、建築途中から後悔する人が多いのも事実です。
工務店の実績を確認する際に施主が知っておくべき3つのチェックポイントとそのポイントにおける注意点や誤解されていることを解説します。これにより、工務店選びで失敗しないためのコツを掴み、良い家づくりに活用してください。
1.工務店の営業年数のチェックポイントと注意点
工務店の実績確認に際しては、その会社が創業してから何年経過しているかという年数に注目する人が多いですが、創業年数からの期間が長ければよいとは限りません。
1-1.創業からの年数に騙されてはいけない
工務店(建築会社)の設立年から計算して、「20年も経っているから真面目だろうし、安心できるだろう」と安易に答えを出すと失敗することがあるので注意してください。「創業50年なんて凄い。それだけ良い仕事をしてきたのだろう」と考えて新築を任せたという施主の話を聞いたことがありますが、建築現場はひどいものでした。
創業や会社設立からの年数が長ければよいわけではないということなのですが、その理由はなぜでしょうか。この点を以降で解説します。
1-2.会社のオーナー・経営者の変更とその影響
会社が長く経営されているということは、それだけ途中で会社のオーナーや経営者が変わっている可能性が高いということです。そして、そのオーナーや経営者の変更を機に経営方針や考え方が大きく変わり、それによって仕事のクオリティーにも大きな変化が表れることがあるのです。
もちろん、その変化は消費者や取引先、業界、社会に対してプラスとなることもあれば、逆にマイナスとなることもあります。
行き過ぎた経費削減(コストカット)、現場や品質の軽視といったことが、オーナー等の変更によって起こってしまうことがあり、結果的に杜撰な工事や人材レベルの低下を招くこともあります。
施主の立場としては、工務店(建築会社)の営業年数をチェックするならば、今の経営体制になってから何年くらい経過しているか確認すべきです。
会社の登記事項を法務局で取得して確認するか、営業マンからヒアリングするとよいでしょう。
1-3.業種を変更していることもある
創業30年などと謳っている会社であっても、実は建設業をはじめてから3年だったというケースもあります。以前は全く関係の無い業種だったが、業種変更をしたというケースです。また、別の事業がメーンであったが最近になってから新たな事業として建設業を始めたというケースもあります。
創業年や会社の設立年をチェックしても、建設業を行っている年数と同じではないことが多いので注意しなければなりません。
1-4.建設業許可番号チェックの誤解
それでは、どれくらい建設業として営業しているのかチェックするにはどうすればよいのでしょうか。それは、直接、その工務店に聞くか建設業許可名簿を閲覧するかになります。建設業許可名簿はその工務店が許可を受けている自治体等で確認することができます。
建設業として営業している年数をチェックする方法として誤解されていることがあるのは、建設業許可番号のチェックです。
比較している業者の名刺やホームページで確認するとわかりますが、許可番号は、「東京都知事(般-■■)第〇〇〇〇〇号」などと表示されています。この表示のうち、■■が営業年数だと誤解している人がいるようです。インターネット上でそのように記載されているケースもありました。
これは誤解です。
表示のうち、■■は許可もしくは更新した年度です。たとえば、ここが「28」ならば、平成28年度に許可を受けたか更新したということです。経過年数ではないのです。建設業の許可は5年ごとに更新しなければなりませんから、今の年度から5年以内の数値が表示されているはずです。
2.新築の供給棟数&リノベーション実績棟数と時期
工務店選びに際しては、年数の実績だけではなく、実際にどれくらいの住宅を新築してきたか、リノベーション工事をしてきたかという供給実績も気になるところですね。ただ、これまでに工務店が積み重ねてきた実績棟数だけを聞いても、実態とあわないことがありますから注意が必要です。
2-1.直近5年間の供給棟数が大事
会社によっては、徐々に供給棟数が増えてきているケースもあれば、逆に減りつつあるケースもあります。また、毎年のように同じくらいの供給棟数を維持していることもあります。
そして、よく確認してみると、5年前までは年間20棟ほど供給していたものの、最近は年間2~3棟しか実績がないこともあります。
これは、その会社のなかで何らかの変化があった証です。新築の供給実績やリノベーションの件数を確認するときは、必ず直近5年間のものも確認してください。
2-2.以前の建築実績は今の人に関係ないかも
5年より前の実績であっても経験があるのだからよいではないかと考える人もいるでしょう。しかし、以前の経験は今現在に活かされていないこともよくあるので要注意です。
特に供給棟数が急減している会社では、実績が多かった時代の人材が既にいなくなっている可能性が高いのです。陣頭指揮をとっていた人材が退職していたり、経験豊富な職人・下請け業者との付き合いが途絶えていたりといったことが考えられるわけです。
それでも、今の社員や下請け業者に経験・技術などが受け継がれておればよいのですが、残念ながら適切に受け継がれていることはそう多くありません。実績が急減しているからといって、すぐに信頼できないというわけではないのですが、心配な要素であることは知っておきましょう。
3.新築・リフォームの実績内容も要チェック
営業年数と供給棟数・工事件数の実績についての大切さと注意点はよくわかったと思います。最後に、実績内容についてもチェックポイントを挙げておくので、活用してください。
3-1.小規模リフォームの実績はほぼ意味がない
あなたが工務店に注文住宅の建築やリノベーション工事を依頼するのであれば、その工務店がやってきた小規模リフォームの実績はそれほど意味がないことを理解しておきましょう。
小規模といってもいろいろですが、たとえば内装工事(壁・天井のクロス張替え)をどれだけ多く経験してきても、新築やリノベーションに役立つことは非常に限られています。基礎、土台、柱、梁など主要な構造部分に関わる新築やリノベーションと、内装等の表面的な工事では種類が全然違うのです。
3-2.建売住宅の建築実績は重要視しない
住宅の新築工事は注文建築だけではありません。建売住宅の建築も立派な新築工事です。ただ、建売住宅と注文建築には大事な点において決定的な相違点があります。それは、設計・計画段階における打合せや業者側からの提案・アドバイスの有無です。
建売住宅には、あらかじめ決められたプランがあり、工務店はその通りに建築するだけです(少々極端な言い方ですが)。そして買主はそれを買うだけです(これも極端な言い方ですが)。つまり、設計等についての打合せなどはありません。
注文建築では、どのような家を建てるのかといった部分において、綿密に打合せし、プラニング(設計)していかなくてはなりません。打合せや設計を進めていくなかで、どういうところが大事なことなのか、何を施主によく説明しておくべきなのか、互いに誤解のないようにするために大事な事項が何なのかといったことが、トラブルを減らすために重要なものです。
注文建築の実績が豊富にある工務店は、その経験からこれを学んでいくことができるのです。よって、実績の内容としては、建売よりも注文建築やリノベーションの実績を重視すべきです。
3-3.HPには建売・小規模リフォームの実績が区別されていないことも
実績として供給棟数や工事件数がホームページや会社パンフレットに載っていることも多いですが、その実績数は上で挙げた工事規模・種類、注文建築か建売住宅かといった区別が明確でないことも少なくありません。
小規模リフォームの件数も含めた総合計のみが記載されていたり、むしろ小規模工事以外はほとんどしていないのに、まるで新築工事をよくしているかのように誤解させる表現になっていたりすることもあります。記載内容だけで判断せず、担当者に突っ込んで質問して反応を窺ってみるとよいでしょう。
3-4.構造・工法の実績に注意
実績内容を確認する際は、全体の数値だけではなくて、扱ってきた建物の構造や工法についても確認しておくべきです。
例えば、鉄筋コンクリート造(RC造)の実績・経験が豊富であるものの木造の経験がほとんどない工務店に木造住宅の新築を任せるのはリスクが高いです。木造でも軸組工法(在来工法)の経験しかない業者に壁組工法(2×4工法など)を任せるのもリスクがあるでしょう。
構造・工法の相違は重要な要素ですから、あなたが建てたい住宅の構造・工法についての実績数を確認しなければなりません。
3-5.丸投げばかりしていることも
工務店といっても建設業許可を得ているだけで、実際に自社内では何も工事をせず、別の工務店へ丸投げしているだけの会社もあります。
不動産会社が建設業の許可も取得して営業しているケースでは、このパターンがよく見られます。建売住宅の分譲をする際に建築工事は工務店に発注していたものの、徐々に注文建築の受注が増えてきたのでとりあえず建設業許可を取得したというパターンです。
会社の社長も営業社員も建築現場のことはほとんど知らず、受注した工事を下請け業者へ丸投げしてしまうのです。
注文建築を建てたい施主にとっては、現場を知らない人たちに委ねる部分が多すぎてリスクが高すぎるでしょう。
ちなみに、原則、丸投げは禁止なのですが守られていないようです。
4.工務店の実績チェックのまとめ
工務店選びに際しては、実績が大事なチェックポイントであることは間違いありません。しかし、実績の確認が単純なものではないことがわかったのではないでしょうか。
- 建設業としての本当の営業年数
- 最近5年間の供給実績
- 実績内容のチェック
この3点について充分に注意して、失敗しない工務店選びをしてください。どの工務店にするか迷いがあり、専門家のアドバイスが欲しい人なら、工務店・ハウスメーカー選びの相談を利用するのもよいでしょう。