住宅の買主が、契約前にホームインスペクション(住宅診断)を依頼したいと不動産業者へ伝えると、売主が実施済みだと言って、売主が依頼したホームインスペクション(住宅診断)の調査結果を見せてもらうことがあります。
「それなら最初から見せてくれればいいのに」と思いつつも、「売主が依頼したものを信用して大丈夫だろうかと?」と疑問を持つ人も少なくありません。
買主が、その住宅を買うかどうか判断するためのホームインスペクションなのに、それを売主が代金を支払って依頼しているわけで、売主と買主の利害関係が対立する以上、当然の疑問ですね。売りたい人の調査結果を見て買主がどう考えればよいのかという問題があります。
また、売主ではないものの不動産業者が依頼または手配したホームインスペクションが実施されていることもあります。不動産業者も売りたい人ですから、やはり買主とは利害が対立する部分がありますね。
ここでは、売主や不動産業者が実施したホームインスペクション(住宅診断)を信用できるか、信用してよいものなのか、買主の立場にたって解説します。
1.売主依頼のホームインスペクションは多い
購入しようとした住宅について、既にホームインスペクション(住宅診断)を実施済みだったということは意外と多いものです。それは、中古住宅でも新築住宅でもそうです。それらが買主にとって信用できるものかどうかは別として売主や不動産業者は売るために調査することは増えているのです。
1-1.中古住宅は売主も仲介業者も依頼することがある
中古住宅では、売主が売却を開始するくらいのタイミングでホームインスペクション(住宅診断)を依頼することがありますが、それは、仲介する不動産業者からその方が売りやすくなることがあるからだと説明され、実施していることが多いものです。
そして、その仲介業者が仲介サービスの一環として依頼していることもあります。これは、売主から売却依頼の仕事を受注するためであったり、売りやすくするためであったりします。
売主が依頼する場合、そのほとんどは仲介業者から紹介されたホームインスペクション業者に依頼しています。
1-2.新築住宅はほぼ全ての物件で依頼している
新築住宅では、実は様々な検査が入っています。建築会社の自社検査、建築基準法に基づく建築確認・中間検査・完了検査、瑕疵保険に加入するための現場検査などです。
しかし、自社検査は第三者性が全くないので、甘くなることもありますし、ほぼやっていない会社もおおいです。
建築基準法に基づく建築確認・中間検査・完了検査は、検査所要時間が10分程度の極端に簡易的な確認であり、これで欠陥工事を防ぐことは無理です。
瑕疵保険に加入するための現場検査も10~20分程度の短時間の検査で、とても安心できるものではありません。
これが新築住宅で実施されている検査(ホームインスペクション)の実態なのですが、営業マンによっては買主へ「検査が入っているので大丈夫。買主が依頼する必要はない」と平気で言っています。売主側が入れている検査が機能していないことを知っていて、このように説明する人もいますが、実は何をどのように検査しているのか理解していない人の方が多いです。
2.買主が売主とは別にホームインスペクション(住宅診断)を依頼すべき理由
売主や不動産業者がホームインスペクション(住宅診断)を依頼していたとしても、買主はそれとは別に依頼すべきです。これが結論です。そこで、その理由をご紹介しましょう。
2-1.買主は売主や不動産業者と利害対立する
買主と売主の利害が対立していることは明白ですね。
買主は、良い家をできるだけ安く買いたいですが、売主は良い家であっても悪い家であってもできるだけ高く売りたいと考えています。これは、立場の違いですから、それぞれがよい人・悪い人というわけではありません。仕方ないことであり、当然のことでもあります。
売主は、もしホームインスペクションで建物の問題点が明らかになってしまった場合は、売りづらくなるとか、安くなるなどと考えます。
そこで、ホームインスペクションで見つかった不具合(瑕疵)があれば、買主に知られたくないと考える人も少なくありません。本当は、そういったことも契約前に説明しておいた方が、売買後のトラブルを減らせるメリットがあるのですが、目先のことを考えてしまう人が多いのも現実です。
つまり、売主のなかには都合の悪いことを隠しておきたいと考える人もいるわけです。
2-2.不動産業者が斡旋・紹介するインスペクションは簡易的な調査
売主が依頼しているホームインスペクション(住宅診断)の大半は、不動産業者(仲介業者)が斡旋・紹介しています。不動産業者と普段から付き合いのあるところ、提携関係にあるところに依頼する流れになっているのです。
このホームインスペクションで実施される調査内容は、国交省の告示で示している基準のみを実施するもので、それ以上のことはほとんどしてもらっていません。つまり、最低ラインの簡易的な調査のみをしているわけです。これは、不動産業者が依頼しているものも同様です。
この簡易的な調査では、買主が知っておくべき大事なことが調査されていない項目が多く、また、基準の一部で緩いところがあるため買主に劣化事象として報告されない症状も多いです。
つまり、買主ならば知っておきたいことが調査されなかったり、報告されなかったりするわけです。
「2-1.買主は売主や不動産業者と利害対立する」で売主が都合の悪いことを隠したいと考えることもあると書きましたが、そういう売主にとっては好都合ですが、買主にとっては不都合ですね。ちなみに、売主はそういうことを知らずに仲介業者に紹介されるままに依頼していることの方が多いです。
仲介業者はとにかく売って手数料収入を得たいと考えているわけですが、不動産業者の知らないホームインスペクション業者を買主が入れるよりも、付き合いのある業者を入れておいた方が安心ですね。
2-3.売主側インスペクション業者のお客様は買主ではない
売主や不動産業者の依頼しているホームインスペクション業者にとっては、買主はお客様でも何でもありません。もっとも気にしているのは売主でもなく、不動産業者の顔色です。
なぜならば、仕事を紹介してくれる大事な取引先だからです。
2-4.買主は自己防衛しなければならない
不動産業者にとって都合の悪い情報(結果的には売主にとっても都合の悪い情報)が、買主に開示されないケースが実際に何度も確認されており、買主は注意しなければなりません。
ここで挙げてきたように、利害が対立すること、簡易的な調査しかしてもらえないことなどを考慮して、売主や不動産業者が依頼済みであったとしても、それとは別に買主が自分で費用負担してホームインスペクションを依頼することをお奨めします。