注文住宅の新築やリノベーションをしようとして、ハウスメーカーや工務店と打合せをしたとき、ハウスメーカー等の営業マンから「仮契約してほしい」「申込金として10万円を支払ってほしい」と言われ、どうすべきか悩むことがあるでしょう。
「仮の契約ならいいか」と安易に考えて契約して申込金や契約金を支払ってから、ハウスメーカーや工務店とトラブルになり、後悔している人は多いですから、その内容をよく理解し、注意して対応しなければなりません。注文住宅やリノベーションの仮契約や申込に関する基礎知識と注意点を紹介しますので、後悔することのないよう学んでおきましょう。
1.注文住宅における仮契約の基礎知識
仮契約に関して理解しておきたいこととして、仮契約そのもののことと契約金や申込金のことがありますので、この2点にわけて以下で説明します。
1-1.注文住宅やリノベーションの仮契約とは
ハウスメーカーや工務店の営業マンから仮契約の説明を受けることは多いのですが、実は本来は仮契約というものはなく、仮契約との対比で言われる本契約(つまり、これが本来の契約)を締結することで、工事請負契約が成立します。
しかし、実際には仮契約というものを行うハウスメーカーや工務店は多いです。これは各社が独自にやっている取引上のシステムのようなもので、会社によっては仮契約ではなく申し込みと呼んでいることもあります。
この仮契約の際に交わす書面に記載されたことは、工事請負契約ではない別の契約行為となりますから、慎重に内容を確認してから応じるべきかどうか検討しなければなりません。見積りや間取りプランを提案してもらうための契約のようなものであることが多いですが、書面にて業務範囲・内容をよく確認してください。
たとえば、仮契約を交わす段階では、まだ建てる土地も決まっていないということもありますが、そのようなタイミングでハウスメーカー等と仮契約を交わすことや、申し込みをする必要が本当にあるのか疑問が大きいです。
この仮契約に関しては注意点がいくつかありますが、後述します。
1-2.仮契約時に支払う契約金・申込金とは
仮契約や申し込みを行う際は、契約金や申込金と呼ばれるものを請求されることが一般的で、その金額は10万円程度であることが多いです。
ハウスメーカーや工務店に間取りプランを提示してもらい、見積り書も作成してもらう上で、ハウスメーカー等としても前向きに検討していることを明確に示してもらう必要があると考えていることが多く、それを表す形でもあるのです。間取り作成や見積りの計算は意外と大変な作業であるので、あまり気軽に依頼されても困るということもあります。
仮契約の際に支払う金銭(契約金や申込金など)は、基本的には契約時(本契約時)に手付金や請負代金の一部に充当することが多いですが、その取り決め内容については交わす書面にて必ず確認してください。
2.仮契約と契約金(申込金)のリスクと注意点
仮契約に関する基礎的なことを理解したところで、リスクと注意点を紹介します。
2-1.期間限定の値引きキャンペーンに注意
ハウスメーカーや工務店は、仮契約を自社と契約してもらうための誘導作戦の取っ掛かりだと捉えていることも多く、この取っ掛かりまでどのように誘導するのかよく考えているものです。そしてよく利用される方法が、期間限定の値引きキャンペーンです。
「今月内に仮契約してもらえれば、50万円の値引きができる」「100万円相当のオプション工事が無料になる」などといった特典・値引きをちらつかせて、仮契約までこぎつけようとするのです。
「ただの仮契約でキャンセルできますから」などと巧みに誘導しますが、冷静に考えましょう。
2-2.仮契約で縛っておく作戦
仮契約は本契約を得るための取っ掛かりだということは述べた通りですが、なぜこのように仮契約を早めに結んでおこうとするのでしょうか。
「いつでもキャンセルできる」と言って気軽に仮契約させておきながら、実は仮契約によって施主(発注者)に絞りをかけておき、ときには強引に契約まで持ち込もうとすることもあります。しかも、後から高い見積り金額を提示してきてトラブルとなっているケースがよくあります。
仮契約のときに支払った契約金や申込金を返金しないと言われ、たとえ10万円程度とはいえ金銭を放棄することを嫌がって営業マンのペースで取引を進めてしまう人は後を絶ちません。
ここで、仮契約のときに支払った契約金等を返金してもらえないのかという問題もありますが、これについては次に説明します。
2-3.契約金(申込金)を返金しない業者に注意
仮契約のときに支払った契約金や申込金は、本契約前にキャンセルした際に返金する業者と返金しない業者にわかれます。もちろん、施主側としては返金してもらえる業者の方が安心ですね。
この条件については、仮契約を交わす前にきちんと確認しておき、その確認結果と同じことが書面に明記されているかも確認しなければなりません。口頭で返金すると言っていたものの、書面には何も書かれておらず、実際にキャンセルしても返金に応じてもらえないという事例もあるのです。
原則として、返金されるか、されないかはその契約内容次第です(仮契約と言われても契約と同じ)。返金されないという仮契約であれば施主に不利だと言えますが、施主としてはそのような条件の会社とそもそも仮契約を交わさなければよいのです。そして、他社と話を進めるようにすれば問題ありません。
口頭で返金すると説明しているならば、きちんとその内容を書面に記載してもらいましょう。そのときに、返金条件(キャンセルから返金までの日数など)も明確にしてもらうようにしましょう。
2-4.契約金(申込金)100万円は断るべき
仮契約の際に支払う契約金や申込金の金額は10万円程度であることが多いですが、5万円ということもあります。一方で、100万円などと高額な金額を求められることもあります。
返金されない条件で高額であるならば、迷わず断るべきことですが、キャンセル時に返金される条件であっても100万円は高額すぎますので慎重に検討した方がよいでしょう。
そもそも間取りプランの提案や見積り金額の提示を依頼する際の預り金としては金額が大きすぎますし、万一、その会社が倒産したときのリスクというものもあります。中小零細規模の工務店であれば、全国的に倒産事例は非常に多く、建設業の倒産は日常茶飯事です(ちなみに大手でも倒産することはあります)。
100万円などという高額な金銭が仮契約(または申し込み)段階で必要だとは思えませんので、そのような金額を求められたときは別の会社で検討するなどの対応を取った方がよいでしょう。
2-5.仮契約を解除したらプランは他では使えないのか?
仮契約をしたもののキャンセル(解除)するという人はたくさんいるものです。提案された間取りプランが合わない、担当者と合わない、金額が合わないなど様々な理由がありますが、キャンセルするのは仕方ないことです。
ただ、キャンセルした場合、その会社から提案された間取りプランは使用しないようにと言われ、使用しないとの覚書にサインを求められることもありますが、これは当然のことなのでしょうか。
実際には、複数のハウスメーカーや工務店からプランを提示してもらうと似たような間取りが出てくることもあります。部分的にほぼ一致していたり、同じようなアイデアが出てきたりすることはよくあります。それでも、同じようなアイデアやプランが使えないとなれば住宅業界全体に問題が及んでしまいます。
隅々まで全く同じプランを使用しないのはわかりますが、部分的にも使えないと主張されることがあれば、そこは明確に要求を拒否しておき、覚書などにサインしないようにしましょう。
3.見積り依頼時の施主(発注者)のマナー
ここまでに、仮契約やその際に支払う金銭について少々否定的な内容で書いてきましたが、施主(発注者)には理解しておいてほしい大事なことがあります。
ハウスメーカーや工務店は、間取りプランや見積り書の作成には意外と大きなコストをかけています。広告宣伝費は別に考えるとしても、施主との打合せや現地調査の人件費、間取りプランを検討する時間、見積り内容を検討する時間などは半日もあればできるという業務ではありません。
実際に数万円くらいの費用はすぐにかかってしまいます。
ちょっと間取り図を描いて、見積りはいつもの感覚でパッと書いて作成できるというような単純なものだと誤解している人もいますが、実際には結構な労力・手間・時間をかけているのです。
それだけにハウスメーカーや工務店としては、軽い気持ちで依頼されて簡単に断られていてはビジネスが成り立たないという事情があり、真剣に考えてくれている人たちに対してしっかり向き合って対応するためにも、仮契約や申込金という仕組みを作っているという面があります。
半分騙すかのように仮契約へと誘導する営業マンは別として、施主の皆さんは前向きに検討している会社に絞ってプランや見積りの提示を依頼することがマナーだと言えるでしょう。